ECサイト運営では、セキュリティ対策が重要な課題とされています。現在、インターネットショッピングが日常化する中で、クレジットカードの不正使用などのサイバー攻撃リスクが年々増加しています。
今回はECサイトが直面する代表的なセキュリティリスクと、その対策について具体的に説明します。
目次
ECサイトのセキュリティ事故の現状
近年、企業サイトからの情報漏洩やサイバー攻撃によるサービス停止に関するニュースをよく耳にしますが、実際のセキュリティインシデントの状況はどうなっているのでしょうか。
総務省が公表した令和5年版情報通信白書によれば、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が運用するサイバー攻撃観測・分析・対策システム「NICTER」によると、サイバー攻撃関連の通信数は2015年と比較して8.3倍に増加しているとのことです。これにより、約10年前と比べてセキュリティインシデントの増加が明らかです。
さらに、経済産業省が発表した「クレジットカードのセキュリティ対策について」によると、2023年のクレジットカード不正利用による被害総額は約541億円と過去最高を記録し、大半が盗まれたクレジットカード番号を利用したECサイトでの不正利用だと報告されています。
このように、Webサイトのセキュリティインシデントは増えており、その中でもECサイトの被害が増えています。
ECサイトは狙われやすいのか
ECサイトは、Webサイトの中でも特にサイバー攻撃の標的になりやすいと言われています。
経済産業省が公表している独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「ECサイト構築・運用セキュリティガイドライン」によると、その理由として以下が挙げられています。
- 誰でも簡単にECサイトを構築できる環境が整っていること
- セキュリティ対策が不十分な自社構築のECサイトが存在すること
さらに、ECサイトにはクレジットカード情報や住所といった機密性の高いデータが多く含まれ、アクセスが容易であることも、攻撃のターゲットになりやすい要因とされています。
ECサイトにセキュリティ対策を行わないとどうなるのか
セキュリティインシデントが増加している現状を踏まえると、対策を怠った場合にどのような影響があるのかが気になるところです。万が一インシデントが発生した際に想定されるリスクについて、具体的に解説します。
信用の低下にともなう顧客離れ
もしECサイトでセキュリティ事故が発生し、顧客情報が漏洩や不正利用された場合、ショップへの信頼は大きく揺らいでしまいます。
一度事故が起きると、顧客は不安を感じ、そのECサイトを今後利用しなくなる可能性が高いでしょう。
信頼を失ったECサイトでは、新規顧客の獲得や既存顧客の維持が困難になり、結果として売上の減少につながります。
さらに、一度離れた顧客の信頼を取り戻すには、多大な時間と労力が必要となるため、セキュリティ事故による顧客離れは企業にとって深刻なダメージとなります。
賠償金のなど事故対応費の支払い
ECサイトでセキュリティ事故が発生すると、その対応に多額の費用がかかることがあります。
例えば、顧客情報が漏洩し、その情報が悪用されて金銭的な被害が発生した場合、ECサイト側は被害者に対して賠償金を支払う必要が生じるでしょう。
さらに、賠償金以外にも以下のような費用が発生する可能性があります
- セキュリティ事故の原因調査や被害状況の分析にかかる費用
- 再発防止のためのセキュリティ強化費用
- 企業イメージ回復のための広報やマーケティング費用
また、事故対応のためにECサイトを一時停止する場合、販売機会の喪失による売上減少も避けられません。
セキュリティインシデントによる損失は、漏洩件数が多い場合、数億円規模に膨らむ可能性もあります。
ECサイトの閉鎖
ECサイトでセキュリティ事故が発生すると、最悪の場合、サイトを閉鎖せざるを得なくなる可能性があります。
顧客離れによる売上の減少や、事故対応中のサイト停止による売上喪失に加え、賠償金や各種対応費用など、収益が途絶える一方で出費がかさみ、経営を圧迫します。
これらの負担が重なり、事業の継続が困難となり、最終的にECサイトを閉じざるを得ないケースも起こり得ます。
これまで積み重ねてきた信頼や売上、さらにはECサイトそのものを失わないためにも、セキュリティ対策はECサイト運営において欠かせない要素といえるでしょう。
ECサイトのセキュリティ問題の種類
セキュリティインシデントの種類は、実際にどのようなものがあるのでしょうか。
ここでは主なものをご紹介します。
企業・個人情報の漏洩
ECサイトのセキュリティ事故で特に深刻なのは、個人情報や企業情報の漏洩です。
個人の場合は氏名や住所、クレジットカード情報など、企業の場合は顧客データや取引先情報が流出する可能性があります。
原因はサイバー攻撃だけでなく、人為ミスによるケースも多く見られます。情報漏洩が起これば、信頼の喪失や賠償金の支払い、訴訟、行政処分など、企業に甚大な影響を与えるでしょう。
ECサイトの改ざん
ECサイトの改ざんとは、第三者が不正アクセスでサイト情報を変更したり、不正プログラムを埋め込む行為により、顧客情報やクレジットカード情報が盗まれるリスクがあります。
さらに、購入画面が偽サイトに差し替えられ、顧客が詐欺被害に遭う可能性も高まります。
ECサイト運営の妨害
ECサイト運営を妨害する攻撃には、「DoS攻撃」や「DDoS攻撃」が代表的です。
DoS攻撃は特定のサーバーに大量のデータを送り、サーバーをダウンさせる行為で、DDoS攻撃は複数のコンピュータを悪用し、さらに大規模な負荷をかける攻撃です。
これらの攻撃により、ECサイトへのアクセスが集中し、ユーザーがサイトを閲覧できなくなったり、購入などのサービスが利用不能になる恐れがあります。
ECサイトのマルウェア(ウイルス)感染
マルウェアは、悪意のある動作をするソフトウェアの総称で、ウイルスもその一種です。
感染すると、顧客情報の流出やECサイトの改ざんなどの被害が発生し、最悪の場合、サイトが完全停止する可能性もあります。
感染経路には、従業員が不審なメールの添付ファイルやリンクを開く、偽のセキュリティソフトをダウンロードする、サイトの脆弱性を突かれるといったケースがあります。
ECサイトのセキュリティ問題が起こるパターン
さまざまなセキュリティインシデントがありますが、そもそも起こってしまう原因は2パターンに分かれます。
外部からの悪意のある攻撃や不正アクセス
セキュリティインシデントの主因の一つは、悪意ある第三者による攻撃です。
東京商工リサーチのデータでは、2023年に公表された情報漏洩の53.1%が不正アクセスやウイルス感染によるものでした。特にECサイトは、金銭目的や情報窃取、ブランドイメージの損失を狙った攻撃の標的となりやすく、手口も巧妙化しています。
さらに、自社に問題がなくても、外部委託先や提携サービス(API)の脆弱性が原因となる場合もあるため、適切な対策が不可欠です。
内部の人為的なミスや不正行為
情報漏洩の原因として、外部要因に匹敵するほど多いのが、社員や委託先によるミスや不正行為などの内部要因です。
東京商工リサーチのデータによると、情報漏洩・紛失の約53%は外部要因によるもので、残りの約47%は誤表示や誤送信、不正持ち出しといった内部要因が占めています。
特に2023年に発生した情報漏洩事故では、漏洩件数が多かった事故の多くが、内部社員による不正な持ち出しやミスによるものでした。
外部要因への具体的な対策
ECサイトを狙ったサイバー攻撃自体がなくなることは無いでしょう。
そのためセキュリティ対策をしっかりと行うことで、外部からの攻撃のリスクを大幅に減らすことができます。 ここでは、ECサイト運営者が実施すべき具体的なセキュリティ対策を解説していきます。
定期的な脆弱性診断
ECサイトのサーバーやプログラムの脆弱性が原因で、情報漏洩やサイト改ざん、サービス停止が発生する可能性があります。
これを防ぐには、定期的な脆弱性診断でリスクを早期発見し、適切な対策を講じることが重要です。診断方法は、自己診断ツールの活用と専門企業への依頼の2種類があり、予算やシステム規模に応じて選択しましょう。また、定期診断の義務化も検討していく必要があります。
常時SSLの導入
ECサイトのセキュリティ対策で重要なのが、常時SSLの導入です。
SSLは、顧客が入力した個人情報やクレジットカード情報を暗号化して送受信する仕組みで、Webサイト全体を暗号化する「常時SSL」と、特定のページのみ暗号化する「部分SSL」の2種類があります。
ECサイトではすべてのページで顧客情報が扱われる可能性があるため、常時SSLの導入が推奨されます。導入には、SSLサーバ証明書の取得とWebサーバへの設定が必要です。
パスワードの安全性維持の徹底
システムログイン時のパスワード管理が甘いと、不正アクセスのリスクが高まります。
パスワードは定期的に変更し、英数字や記号を組み合わせて複雑化し、使い回しを避けましょう。
顧客向けには、「パスワードポリシー」を設け、最低文字数や必須文字種類、定期変更ルールを設定することでリスクを軽減できます。
ただし、複雑すぎる設定はユーザーの負担となり、登録を敬遠される可能性があるため、バランスが重要です。
3Dセキュア2.0の導入
3Dセキュア2.0は、ECサイトでのクレジットカード決済をより安全にする認証システムです。
従来の固定パスワード認証に加え、ワンタイムパスワードや生体認証を活用することで、不正利用を防止します。
ECサイト運営者には、2025年3月31日までに3Dセキュア2.0への対応が義務付けられています。
他にもクレジットカード以外の決済方法を導入するのも1つの方法です。
例えば、Amazon Payのような世界水準のセキュリティを持つ決済手段を利用すれば、不正利用のリスクを軽減できます。さらに、顧客が情報入力を省けるため、利便性が高く人気のある選択肢です。
不正検知システムの導入
ECサイトは誰でもアクセス可能なため、不正アクセスを試みる悪意のある人物もいます。
不正検知システムは、怪しいアクセスや不正な行為を自動で検出し、未然に防ぐための仕組みです。
例えば、通常と異なるログイン場所や方法、短時間でのIDやパスワードの繰り返し間違いなどが、不正アクセスと判断されます。
不正アクセスが成功すると、顧客情報の流出やサイト改ざんのリスクが生じます。
対策として、Webアプリケーション攻撃を防ぐ「WAF(Web Application Firewall)」や、不正アクセスを検知する「IDS/IPS(侵入検知・防御システム)」の導入が有効です。
内部要因への具体的な対策
内部スタッフや委託先の社員のセキュリティインシデントも、何らかの対策を行うことで発生するリスクを抑えることができます。
ここからは、具体的な内部対策を見ていきましょう。
社員教育によるセキュリティ意識の向上
情報漏洩の約半数が内部ミスや不正行為によるものであり、セキュリティ意識の低さがインシデントの原因になることがあります。
そのため、ECサイトに関わる全ての人がセキュリティの重要性を理解し、適切な行動を取れるよう教育を行うことが重要です。
- パスワード管理: 複雑なパスワード設定と定期的な変更の徹底
- マルウェア対策: 感染リスクや対応策の周知
- データ管理: 機密情報の取り扱い規定と適切な管理方法の説明
これらの内容は一度で浸透するわけではないため、定期的に実施する必要があります。
アクセス権限の厳重化
不正行為を防ぐためには、情報資産へのアクセス権限を厳格に管理することが求められます。
- 必要最低限の担当者にのみアカウントを発行し、権限を制限
- 制作会社など外部委託先へのアクセスを制限
- 多要素認証: パスワードに加え、生体認証やスマートフォンアプリを組み合わせてセキュリティを強化
情報持ち出しの制限
顧客リストや機密データの持ち出しを制限し、情報流出を防止します。
- 原則として持ち出し禁止、例外的に必要な場合は承認制
- USBなど外部記録装置の使用禁止
- 退職者のアカウントを速やかに削除し、情報へのアクセスを遮断
- 機密情報取り扱い規定を作成し、違反者への罰則を設定
これらの対策を講じることで、内部要因によるセキュリティインシデントのリスクを大幅に減らすことができます。
まとめ
ECサイト運営において、セキュリティ対策は必須で、対策を怠ると情報漏洩による顧客離れやサイト閉鎖など、事業に深刻な損害をもたらす可能性があります。
セキュリティインシデントの原因には、外部からの攻撃や不正アクセスだけでなく、内部のミスや不正行為も含まれます。外部と内部両方の対策を組み合わせることで、より強固なセキュリティ体制を構築することが重要になることを認識しておきましょう。
弊社はECに特化したマーケティング支援を行っております。
少しでもお困りなことや、気になっていることがありましたら
無料で弊社コンサルタントへ相談できますのでお気軽にご連絡ください。