EC事業を展開する上で欠かせないのが「物流」であり、配送まで、一連の流れを最適化し、消費者の手元に迅速・適切に商品を届けることは今も昔も重要な課題として認識されています。
今回はEC事業における配送方法の基本的な流れから最新の特徴、さらに顧客満足度につながるポイントまで詳しく解説します。
目次
EC物流の基本的な配送までの流れ
EC物流とは、ECサイトで購入された商品を消費者へ運ぶ一連の流れを指します。
その過程は大きく5つのステップに分けられますので、まずは基本的な流れを把握しておきましょう。
製造・入荷/検品
EC業界では、製造・入荷/検品の工程が重要な一部となっています。この工程は、商品が顧客の手元に届くまでの流れの最初のステップです。
商品が製造された後、事業者の倉庫まで運送されます。そして、入荷した商品が注文と一致しているか、また商品に傷や欠陥がないかを確認する「検品」の作業が行われ、この段階で問題があればすぐに対応し、不良品を混入させないことで、顧客からのクレームを未然に防ぐ役割も果たしています。
商品の品質を担保し、顧客に満足度の高い商品を提供するために、この工程は欠かせません。
棚入れ(保管)
製造・入荷後は、次のピッキング作業に備えて、棚入れ(保管)という工程で適切に保管されます。
この段階では、製品の種類やサイズにより最適な保管方法が求められます。例えば、一般的な消費財であれば、一定の温度や湿度を保つ必要があります。
また、同じ商品でも販売が多い商品(ベストセラー商品)とそうでない商品とで、保管場所を変える工夫も重要です。ベストセラー商品はピッキング作業が頻繁に行われるため、作業者がすぐに取り出せる場所に保管すると、作業効率が大幅に向上します。
このように、棚入れ(保管)作業は商品の種類や販売状況を考慮しながら、効率的な作業を目指して行われます。また、商品が破損しないよう、適切な保管方法を維持することも重要な役割となります。
棚卸(管理)
棚卸(管理)とは、商品が的確に管理されているかを確認する重要なステップです。これにより、売り切れや品切れを防ぎ、常に最新の在庫状況を把握することができます。
棚卸は日々変動する在庫をリアルタイムで把握し、適切な配送処理を行うためには欠かせない作業です。
また、定期的な棚卸作業を行うことで、不正や横領の防止、在庫評価の正確性などの面でもメリットがあります。毎日の業務において、細部まで気を配りながら進めていくことが求められます。
ピッキング
ピッキングとは、お客様が購入した商品を保管場所から取り出す作業のことを指します。EC配送において重要な過程であり、ここでの誤りは顧客への信頼を失う可能性があります。
ピッキングは2つの主要な手法があります。
1つ目は「シングルピッキング」です。シングルピッキングとは、オーダー単位(発送単位)にピッキングを行う方法で、多品種小ロットのオーダーの際によく用いられます。
シングルピッキングはオーダー単位でピッキングを行うため、ピッキング指示を受けてから出荷完了までのスピードが早いのが特徴です。ただし、オーダーごとにスタッフが倉庫内を移動するため、スタッフの負担やピッキング時間の増加などの課題が残ります。
2つ目は「トータルピッキング」です。トータルピッキングとは、複数のオーダーをまとめてピッキングし、仕分け場へ運んでから再度オーダーごとに分けていく方法を指します。一度に大量の商品を出荷する際に用いられることが多く、新作商品や売れ筋商品などの出荷でよく採用されます。
一度にピッキングを行えるため、倉庫内の移動負担を減らすことができますが、一方で仕分け場での作業工程が1つ増えてしまうため、オーダーの間違いや商品の漏れなどが発生しやすくなります。
どちらも一長一短のピッキング方法といえますが、この2つの良い部分を採用したものに「マルチオーダーピッキング」という方法もあります。
マルチオーダーピッキングでは、あらかじめ複数のオーダーに対応した段ボール箱などをピッキングカートに乗せ、ピッキングを行いながらそのまま仕分けも完了させるという方法をとります。
一度に複数のオーダーをピッキングでき、かつ仕分け場でのミスも防げることから、シングルピッキングとトータルピッキングの折衷案として位置づけられています。
梱包・配送
「梱包・配送」はECビジネスにおける非常に重要なステップです。製品が顧客に届くまでの最終段階ということで、この工程が成功するかどうかは顧客満足度に大きく影響します。
まず「梱包」ですが、EC商品は荷物として運送されるため、適切な梱包が必要です。製品を守る役割だけでなく、開封時の印象も左右します。たとえば、ギフト用の包装やお店のブランディングを含めた梱包は、顧客満足度向上につながります。
次に「配送」です。ここでは、出荷時間や送料設定、配送時間帯の選択など、顧客のニーズに対応したサービスが求められます。また、配送状況の透明性も重要で、追跡情報を提供することで、顧客は商品到着を安心して待つことができます。
これらはすべて、顧客体験を高めるための重要な要素であり、適切な「梱包・配送」は顧客満足度を向上させるためのカギとなります。
最新のEC物流の特徴
最近の物流・運送業界で話題となっている「2024問題」がEC業界にも大きな影響を与えることが予想されているため、EC業界に関わる事業者はしっかりと把握しておきましょう。
2024年問題によるさらなるコスト増加が懸念されている
2024年問題とは、「働き方改革関連法」によって、自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限は720時間と定められましたが、実際は物流・運送業界などのトラック運転手やタクシードライバーは、制度とその実態があまりにもかけ離れていることから、960時間を上限とし、規制適用までに5年の猶予が設定されています。
しかし実際の現場では、既存のオペレーションをすぐに変更することは難しく、多くの予算を必要とした、「配送オペレーションの見直し」や、「経営モデル自体の見直し」などを迫られています。
ギフト対応や梱包資材などにも配慮が必要
EC事業を展開する上で、単に商品を顧客に届けるだけではなく、どのように届けるかも重要です。
特にギフト対応や梱包資材の選択は顧客満足度に大きく影響します。
昨今は手軽な贈り物としてギフト商品を購入する顧客が増えているため、例えば、ギフトラッピングサービスを提供することで、顧客からの評価を高めることができます。また、ギフト用途だけでなく、日常的な商品配送でも、梱包資材が丁寧であればあるほど、商品への尊重感が伝わり、顧客満足度の向上につながります。
さらに、環境への配慮も消費者のニーズとして高まっているため、エコな材料から作られた梱包資材を使用することで、企業の社会貢献度をアピールし、更なる信頼感を得ることが可能です。
こうしたギフト対応や梱包資材についての配慮は、顧客満足度に直結しますが、既存のオペレーションに組み込む際には工数がかかり、新たな予算を投じる必要があるため、EC事業者には難しい判断が迫られるでしょう。
顧客満足度につながる3つのポイント
顧客満足度の高さは、ECサイトの成功を左右する重要な要素の一つです。配送に関しては以下の3つのポイントが特に重要となります。
ギフト対応や梱包が丁寧か
配送は商品を顧客に届けるだけでなく、品質を保ち、顧客の満足度を高めるための重要なプロセスです。特にギフト対応や梱包の丁寧さは、顧客満足度に直結します。
EC事業者がギフト対応を行う際、重要なポイントは、包装紙の種類やリボンの色、メッセージカードの有無など、商品を贈る際のニーズに対応することです。
一方、梱包についても同様に重視すべきは丁寧さです。商品が破損しないように適切な梱包材を用いるだけでなく、開封時の体験を考慮し、誰が見ても手間暇かけていると感じられるような梱包を心掛けましょう。
配送状況を把握しやすいか
配送状況の把握は、EC事業者にとって重要な要素であり、顧客満足度にも直結します。商品がいつ届くか、現在どの地点にあるかなど、リアルタイムで情報が得られることは、透明性を高め、顧客の不安を軽減します。
例えば、「荷物追跡サービス」を活用することで、適切な配送情報を顧客に提供することで、顧客は配送状況を自由に把握し、自身のスケジュールに合わせて受け取りが可能となります。
また、こうした機能を複数のサイト・アプリにまたがって操作をさせてしまっては、ユーザーの利便性を損ねてしまうため、配送業者が「配送状況を手軽に確認できる自社アプリを持っているか」や「自社と配送業者の情報連携がスムーズに行くかどうか」なども検討しなければなりません。
返品時の対応が充実しているか
返品時の対応は、顧客満足度に大きく影響を及ぼします。商品の購入を決定する際、消費者は「もし商品が思っていたものと異なった場合、返品は簡単にできるのか」という疑問を抱きます。
対応が複雑だったり、手間がかかると感じると、初めから購入を見送る可能性もあります。そのため、簡単で早い返品対応が求められています。これらをクリアすることで顧客は安心して購入を進めることができ、結果的にECサイトの利用頻度や売上にも寄与します。
まとめ
2024年問題をきっかけに、物流・運送業界における問題がEC業界固有の問題にも大きな影響を与えます。EC事業者は自社を取りまく状況に引き続き注意を払うと同時に、自社として取れる対策を講じていく必要に迫られています。
このような状況下において、商品購入後の体験を高めるポスト・パーチェス領域で何らかの対策を講じることは、競合他社との差別化要素の1つとなります。顧客がストアを評価して再購入する回数が増えれば、購入前のマーケティング活動だけに注力するのではなく、「購入後体験の最大化」といった新たな事業戦略が見出せるかもしれません。